
生産システム
従来、オフィス家具業界は、長いリードタイムと不安定な納品問題に悩まされていました。その主な理由は、製品の大半が顧客の特注を受けて生産されるためで、製品の種類が多く、それぞれに機能や仕上げのオプションがあるため、製品種類は何百万パターンにもなるためです。こうした制約に、複雑さ、非効率性、そして業界特有の昔ながらの生産方式が重なり、信頼性、カスタマーサービス、そして収益性の向上を阻んでいました。
企業戦略の一環として、ハーマンミラーは数年前に事業運営方式の大幅な見直しを開始しました。そのうちの重要なステップとなったのが、トヨタのサプライヤー・サポート・センターとの実りある協力関係の確立でした。世界第一級レベルのスリムな生産プロセスを取り入れる、家具業界では独自の試みでした。以来、当社では生産設備の床面積と在庫数を削減する一方、売上と収益を劇的に伸ばすことができました。標準生産リードタイムの平均は8週間から4週間に短縮し、多くの製品は10営業日で出荷可能となりました。
これと関連したもう1つのイニシアティブとして、ハーマンミラーとサプライヤーとの間で、オンラインリアルタイム取引を確立し、さらにすべての生産拠点でお客様からの個別注文に対応できる体制が整いました。ハーマンミラーの ERP システムは、全拠点を通して、生産現場、部品、人員、そして機器をコーディネートしています。こうした事業改革の成果は目覚ましいものでした。そして、その旅はまだ始まったばかりです。
従業員持株制度
1950年、ハーマンミラーは、従業員参加型経営の本格的なプログラムを制定しました。そしてそれに伴う重要な制度として、ハーマンミラーは、1983年、従業員持株制度を制定しました。今日、ハーマンミラーで1ヵ月以上働いた従業員は、会社の株を所有することができます。1999年7月時点で、ハーマンミラーの発行済全株式の16%は従業員により所有されています。
従業員株主は、会社の収益性と信頼性スコア(顧客の期待に対する企業の業績を測るスコア)に自らが果たす役割を知っており、注意深くモニターしています。全従業員は毎月、業績の数字、特に、従業員の活動により会社が獲得した長期的価値の指標である経済的付加価値(EVA)スコアを確認します。私たち従業員は会社のオーナーであり、オーナーの立場で考え、事業によりもたらされた富をオーナーとして分かち合っているのです。また、会社の長期的な利益と成長のために、1人ひとりが何をできるか真剣に考えています。

経済的付加価値(EVA)
会社に影響を及ぼし、成長を助けるための短期的および長期的な決断に役立つ指標として、ハーマンミラーでは高い評価を受けている業績の測定指標であり、報酬体系でもある「経済的付加価値(EVA)」を使っています。これはコンサルタント会社、スターン、スチュワート・アンド・カンパニーが広めたシステムです。
EVA は、営業上および財政上の業績を測定する社内の基準であり、全従業員株主に対するインセンティブ報酬にリンクしています。EVA プランの下で、ハーマンミラーは重点を、予算に対する業績から、長期的視野での継続的改善と経済価値の創出へとシフトして来ました。
改善に向けた計画の際には、ハーマンミラーでは EVA 分析を用いています。また、プログラムの追加や中止を決定する際にも、EVA でその影響を測定します。業績は毎月、EVA を利用して測定します。この測定値は、新入社員がまず最初に覚えるシステムの1つでもあります。EVA は、導入以来、株主のための利益に大きく寄与しています。


イノベーション
1930年代、大恐慌の時代、D.J.デプリーは、ギルバート・ローディのデザインになるコンテンポラリーな家具に事業の生き残りを賭けました。この賭けは大成功を収め、1945年、ハーマンミラーは伝統的な家具の生産を止め、のちに「モダン」ファニチャーと呼ばれるようになるコンテンポラリーの家具に事業を一本化します。
1960年、ミシガン州アナーバーの新しいリサーチ部門ディレクターに就任した発明家で研究者のロバート・プロプストは、オフィスワーカーの真のニーズと、会社や組織が必要としているものの探究を開始しました。プロプストと配下の研究者たちは、オフィスの生産性が将来のビジネスにおいて主要な問題となることに気づき、働く人、機械、そして変わりゆくワークプロセスの統合に注力しました。その研究から生まれたのがオープンプラン・オフィスで、アクションオフィスと命名され、1968年に市場に紹介されました。
革新は、目標ではなく、研究の成果なのです。革新は、顧客の複雑なニーズに対する深い考察に基づいた研究、素材やプロセスの探究、そして世界市場における社会や経済の変革に対応するデザインの中から生まれます。もちろん、その上に、デザイナーがインスピレーションを加えます。チャールズ&レイ・イームズのプライウッドチェア、ロバート・プロプストの アクションオフィス、ビル・スタンフの アーゴンチェアと アーロン チェア、そしてアイシェ・バーセルの リゾルブシステムなどはすべて、そのような相互作用の中から生まれて来たものです。
また、革新性のもう1つの側面、リスクをとること、も同様に重要です。ハーマンミラーは、リスクをとる意欲を常に持ち続けるよう努めています。企業規模が拡大し、資本に対する責任も大きくなるにつれ、リスクを最小限に留めるプレッシャーも増してきました。しかしながら、成功を確信できる新しい製品――ときには時代を変える革新性を持つ製品――を送り出していくリスクを、ハーマンミラーは引き続き喜んでとり続けます。