真剣に遊ぶ

質素な段ボール箱からインスピレーションを受けて、レイ&チャールズ・イームズは、子どもと大人の想像力を掻き立てるおもちゃと家具を創作しました。


作者: Alexandra Lange

Interactive Toy: Archives

大きなカートンの中で遊んでいる子供たちのヴィンテージ写真。

レイとチャールズ・イームズは、子どもの遊びについて真剣に考えました。二人は、想像力を掻き立てるおもちゃ、家具、映画を考案しましたが、決して、子供達の想像力を限定しませんでした。自分達の楽しいアイデアを盛り込んだおもちゃは、組み立てたり、造ったり、建てたりできるようにして、大人用の小型版の道具を子ども達に与えました(そして大人には再び子どもにかえる機会を与えました)。二人のデザインの多くは、子どもとその親が良く知っている事実を取り入れていました。荷物が箱で届いたとき、箱が大きければ大きいほど、中身よりも箱の方が楽しいという事実です。

Photos, labeled Carton City USA, show sun-kissed kids navigating Eames Alley and Miller Street on tricycles and in wagons.

イームズオフィスの駐車場に設置された、架空の街であるメイベリーを真似たカートンシティの風景。ミニチュアでありながら停止サインがあり、隣人とも交流できます(上)。イームズストレージユニットの発送用の段ボールに付いている点線は、入り口やオーニング付の窓にぴったりです。1950年(左下)。太陽を浴びてイームズ道とミラーストリートで遊ぶ子供達(右下)。© Eames Office, LLC

つまり、ハーマンミラーのアーカイブで発掘された写真が私たちに思い出させてくれたように、イームズ夫妻が箱自体を改良したことは全く驚きではありません。質素な段ボール箱は、子供たちにとってレースカーやロボット、家など、自分達のためのスペースを作るチャンスなのです。そしてイームズ夫妻は、運送用コンテナーから、イームズストレージユニット(ESU)を1951年に生み出しました。

「カラフルな赤と黒のデザインと、特徴的なハーマンミラーの「M」で印刷された頑丈な段ボール箱は、木の細長い薄板で補強されており、家具を取り出した後は、底の木製スキッドを再び釘で固定して、子供達が喜ぶプレイハウスになりました」とプレスリリースの草稿に書いてあります。別のパンフレットには「プレイハウスの作り方」の手順が書かれていますが、点線は入口、窓、そして粋なオーニングにぴったりと書いてあり、見れば一目瞭然であったでしょう。

This town's park bench is one of the Eameses' molded plywood stools, made by Evans Products in 1945.

この街にあるベンチは、1945年にEvans Productsが作成したイームズ夫妻の成型プライウッドスツールの一つです。© Eames Office, LLC

イームズ夫妻は、大人と子どもの楽しみを組み合わせて、無駄をなくし、つまらない配送過程をワクワクするイベントへと一気に変えたのです。上向き矢印と、アーヴィン・ハーパーがハーマンミラーのためにデザインした「M」というロゴの深いVの部分は、ミニチュアのタウンハウスや高層ビルなど上向きに拡大させることができるという可能性を連想させ、子どもや親はもっと家具が必要になったかもしれません。

イームズストレージユニット(ESU)自体も、大人にとっての解体可能なおもちゃでした。穴のあいたスチールの押出成形と斜めの筋交いで作られており、低めのサイドボードとしても、高めの本棚としても設定できますした。またプライウッドの引き出しやドア、穴あきのメタルかエナメル塗装のメゾナイト製のパネルを選ぶことで、インテリアに応じてカスタマイズすることが可能でした。さらに分解して配置しなおしたり、追加したり、モジュラーボックス形式の家具を、まるでおもちゃのように取り扱うことができます。

A playful plan created by Ray Eames for An Exhibition for Modern Living in 1949.

1949年のAn Exhibition for Modern Living用にレイ・イームズが作成したイームズ・オフィスのルームディスプレイのプラン。デザイナーの遊び心溢れるアプローチを表しています。写真提供 アンドリュー・ニューハート。

子供用のおもちゃを大人がデザインして、イームズ夫妻は、箱からインスピレーションをたくさん得ました。1951年にTigrett Enterprisesにより製造されたThe Toyは、子供たちにとって、カートンシティのものより、よりカラフルで柔軟性がある組立式の構造を作るチャンスでした。イームズ夫妻は当初、1940年代後半に寸劇と写真撮影に使用されていたものを基にした、大きくて鮮やかな紙と段ボールで出来た動物マスクの製造について、Tigrettに連絡しました。このメンフィス拠点の会社は、おもちゃの水飲み鳥の販売で富を築いた企業家のジョン・バートン・ティグレットにより経営されており、特許が取得できる商品を探している可能性があったのです。マスクは、試作品から完成品にこぎつけることは出来ませんでしたが、よりシンプルで、より幾何学的なおもちゃが完成しました。

Ray Eames plays with an early prototype of The Toy outside the Eames House in 1951.

1951年イームズハウスの庭で、The Toyの初期の試作品と遊んでいるレイ・イームズ。
© Eames Office, LLC

“ 懐かしい昔のおもちゃは、使われている素材について意識する必要はありません。木は木ですし、ブリキはブリキ、そして鋳物はみごとに鋳物です。”

— チャールズ・イームズ

The Toyは、薄い木製ダボ、モール、そして緑、黄、青、赤、赤紫、黒の四角と三角の補強紙パネルを組み合わせたものでした。子供達は、パネルの端にあるスリーブにダボを通して補強して、その支柱を角で取り付けることができました。最初は、シアーズカタログを通して、大きな平らな箱に入れて販売されていましたが、イームズ夫妻はこの包装をデザインし直して、すべての部品を丸めて保管できる、よりすっきりとした76センチメートルの六角形の筒を作りました。

The Toyの最初のバージョンは、段ボール箱のように、子供達が中に入るのに十分な大きさのスペースを作ることができました。1952年に発売されたThe Little Toyは、建築モデルのようなサイズで、子供達はこのドールハウスを徹底的に分析することができました。(イームズオフィスはその後、レベル社のために近代的なモデルハウスの試作品を作りましたが、製造までこぎつけることはありませんでした。)The Little Toyの箱は、カラフルな四角の格子と単語が特徴的で、イームズハウスの正面とESUのパネルのアレンジに似ており、これらの様々なスケールの製品はすべて、数年の間にイームズオフィスにより開発されました。

The smaller scale of The Little Toy (top left) allowed children and adults to create their own architectural models (top right, bottom), 1952.

子どもも大人も自分だけの建築モデルを作ることができる、小さいスケールのThe Little Toy(左上)(右上、下)。1952年。© Eames Office, LLC

チャールズ・イームズはかつてイームズオフィスでひと仕事終えた時に「私たちは連鎖反応で仕事をしているのです。一つのテーマが次へとつながっているのです」と述べています。ESUとThe Toyがイームズオフィスが生み出した息の長いモジュール式の紙ベースのおもちゃであるHouse of Cardsにつながっています。

House of Cardsは元々、側面に2つ、端に1つずつスロットが付いた54枚のカード2組から構成されていました。The ToyおよびLittle Toy同様に、できるだけ簡単に空間を作るというのがアイデアでした。切り込みにより、ダボやワイヤーフレームそして道具を使うことなく、よりすっきりと連結することが可能になりました。こうした住宅やESUでは、テクスチャーと色合いを様々に組み合わせられました。カードも、最初の1組に異なるパターンの54枚のカードを選び、2組目では異なる写真のカードを選びます。

Photographs of everyday objects, whose beauty may be overlooked, appeared on House of Cards. Notches made them easier to build with.

House of Cardsの写真とパターン(左)は、はさみ、ボタン、ペンダント、レースなどの日々見過ごされがちではあるものの、美しさを持つありふれた物を表現するために慎重に選ばれました5年前にイームズフィルムの「Toccata for Toy Trains」でアニメ化された、ブリキの車と列車も登場しています。チャールズ・イームズが実演しているように、House of Cardsは切り込みにより、The Toyよりも簡単に組み立てられるようになっています(右)。1952年。
© Eames Office, LLC

Tigrettのカタログでは3種類のすべてのイームズ商品について、「このおもちゃシリーズは、サイズも組み立て方もすべてが異なり、それぞれが優れている上に、実際に色と空間を体感することができるため、保護者や教育関係者から称賛されています」と記述されています。House of Cardsの絵柄により、組み立てられた作品は、まるでマルチスクリーンのメディアイベントを見ているようになります。そしてこれはイームズ夫妻が探求していた別のアイデアでした。

「Toccata for Toy Trains」のナレーションで、チャールズはこう言っています。「懐かしい昔のおもちゃでは、使われている素材について意識する必要はありません。木は木ですし、ブリキはブリキ、そして鋳物はみごとに鋳物です」そして夫妻自身のおもちゃに関して、段ボールは段ボールであると加えたかったのではないでしょうか。また強度や低コスト、少しの切断や切り込みにも耐えうる理想的な建物の素材としての質についても話しています。

カートンシティの段ボール、The Toy、Houses of Cardsは、子供達にとって初めて組み立てする機会となりました。実際、チャールズ&レイ・イームズは、子供たちが(少なくとも大人よりも)住宅、ショールーム、家具についてより真剣に構造および素材の探求に向かわせるきっかけを作りました。また試作品と動物マスクの素材である段ボールは、デザイナーが作った包装でなくても家にあるものです。その可能性に気づいて、チャールズとレイは、小さくて想像力豊かな世界、箱の中に街を作ったのです。 

Children exploring Carton City USA.